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名店。人気の店、有名な店、行列が出来る店、そして歴史がある店。
名店の形はさまざまです。

この「名店手帖」ではそんな名店も、それとは違った形の名店も、
今後名店になりそうな予感のする魅力的な名店(未来の名店)もたくさんご紹介していきます。

今回ご紹介する名店は、全国各地で洋服を仕立てる「流し」の仕立て屋『流しの洋裁人』をご紹介します。



気になったその言葉の響き



『流しの洋裁人』がやってくる!

そんな情報が僕の耳に入ってきたのは昨年12月のこと。

それはあまりに突然でした。

『流しの洋裁人』という言葉の響き、いったいそれが何なのか、

実際に確認してみたくて、『流しの洋裁人』がやってくるという渋谷のファッションコワーキングスペース『coromoza fashion laboratory』に足を運びました。


『coromoza fashion laboratory』に足を踏み入れると、

しっかりと準備された机、そして『流しの洋裁人』と書かれ、シルエットのロゴがデザインされた横断幕が目の前に現れました。


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『流しの洋裁人』とは?



机、横断幕、そしてラックに掛かった仕立てられた服たち。

『流しの洋裁人』とはいったい何なのか、

仕立て作業中だった、原田陽子さん(30)にお話を伺いました。


「『流しの洋裁人』とは私、原田陽子が店舗を持たずに「流し」で全国各地の様々な場所で仕立てを行うプロジェクトです。「流れ」た先で手に入れた生地を使用し、出会ったお客様一人一人に合わせた生地と型で洋服を仕立てます。と言っても、今回でまだ3回目で、そこまで様々な場所で仕立てを行えていないのが現状ですが(笑)、今後も積極的に活動していきたいと思っています。まだ始まったばかりのプロジェクトなんです、すみません…。」

そう答える原田さんは、マイペースで気さくな、とても親しみやすい性格の持ち主。


「この『coromoza fashion laboratory』にこうして「流れ」てこられたのは良いご縁があってのことです。東京初進出なんです、実は(笑)。」

今回は2日間だけの限定出展です。



いくつかのきっかけ



IMGP1409_1 今回の出展タイトルは「comme de pyjama! version.1」。パジャマだけどちょっとそこまで着ていける!をテーマに、仕立てを行っていた原田さん。ぐっすり眠れるおまじないタグ付き。


「流し」の仕立て屋さん。

そのあまり聞き慣れない活動をするようになったきかっけは何なのでしょうか。

「私は普段、関西の大学・短大で助手をしています。身体の延長上にある衣服・室内・その先の建物だったり街だったりの環境を総合的に勉強する学科で、主に衣服制作の授業やゼミを補佐しています。服を作る実習中に、学生との衝撃的な会話があったのです。「今、みんながしてるのと同じように、世界のどこかで誰かが縫ってるんだよね。」と私が学生に話しかけると、「え?うそ?そんなアナログなん?工場の機械でポンてできるんかと思ってた。」と平然とそんなことを口に出すのです。洋服の生産過程について、全くといっていいほど知識のない学生がいたのです。洋服はすぐ出来上がってくるモノ。…そうか、この子たちは服を人が縫っている光景さえも見たことがないのか。私はそのことに驚き、そして、少しショックを受けました。ここ数年のファストファッションの影響からかもしれません。洋服がつくられていく、その過程の楽しみと喜びがなく、洋服そのものに対しての考え方もどこか違っていたのです。」


大学で服飾に携わる前の仕事も服飾関係(ファストファッションの企画製造卸会社の企画営業)だったという原田さん。

「サンプルを海外の工場に送ったら、3週間で商品が上がってきます。そこにはミシンの音一つも聞こえないやりとりしかなかった。人が縫っている実感もなかったんです。」

以前携わっていた仕事について、原田さんはそう話します。


「前職と現職以外にも様々な経験をし、影響を受けました。出前授業で地域の小学生にスカート作りを教える講師、THERTRE,yoursでのミシンスタッフ経験、きむらとしろうじんじんさん(焼立器飲茶美味窯付移動車で全国をまわりながら茶碗の絵付けや野点をされている陶芸家)のサポートスタッフなど。洋裁を通してものづくりの楽しさを伝導できるのではないかという可能性を感じました。」

そのようないくつかのきっかけと、

そしてもう1つ、大きなきっかけがあり原田さんは『流しの洋裁人』という活動をスタートさせます。


それはガーナでの体験です。

「2年前、友人がガーナに長期滞在していたので、この機会を逃したらアフリカ大陸になんてなかなか行けないだろうと思って、ガーナへ行ってみようと思いました。アフリカってどんなとこ?という好奇心と友人に会うためだけの旅行の気でいたのですが、ガーナで見た光景に衝撃を受けました。街まちの道ばたに、車修理・食べ物屋・古着屋・理美容店などのコンテナ仕立てのお店が屋台のように並んでいて、その中には仕立て屋もあったのです。ガーナではTシャツや短パンなど古着のようなものがたくさん売られている一方で、形こそいわゆる洋服なのですが、カラフルなアフリカンプリントの生地で仕立てた洋服を纏っている人も多く、小さな集落には必ず仕立て屋がありました。ガーナにはもちろん携帯電話もあるしネットもありますが、日々の暮らしのなかに洋服や料理が出来上がっていく過程を目にする機会が、そこここに残っていたんです。私は実家が岡山の田舎だったこともあり、最新の服やおもちゃは手に入らずとも、母に縫ってもらったり、自分で作ったり、はたまた近所のおじさんたちに竹細工を教えてもらったりと、アナログな環境下で育ちました。また、幼い頃には近所のおばちゃんたちが集会所でデニムを縫いあげる内職を見ていたので、懐かしさを感じたのかもしれません。しかし、それだけではなく、その場で服が出来上がっていき、その街の風景をも仕立て屋が作りだす、その様な生き生きとした力強さのある光景に引き寄せられたのでしょう。滞在先の近所にあった仕立て屋の主人(マダム)に、日本で服を作ったり教えたりしていると言うと、「それなら仕立てるまでの過程を一通り見せてあげるから、ここのハギレを使ってあなたも私に何か縫ってちょうだい」と言われ、弟子の子たちに協力してもらいながら小物を作ったのです。」



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原田さんが実際にガーナを訪れた際に撮影した写真。道路沿いに立ち並んでいた仕立て屋。


nagashinoyosainin_301 仕立て屋の主人(マダム)と弟子たち。弟子はまず自分の制服を縫うことから始めるらしい。


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近所の人が、ただ、立ち寄って話に花をさかせていく。服の仕立てを通しての一種のコミュニティースペース。


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マダムが私にどのデザインが良いか選ばせてくれた後、顧客台帳をひらいて仕立て作業の説明。
マダム「この人のを作るわ」。



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この服をベースに、



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完成したのがこちらの服。



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マダムに「私に何か縫ってちょうだい」と言われ、原田さんが制作した「ハギレバッグ」
ハギレバック(デザイン/裁断:原田・手回しミシン縫製:弟子)



「ガーナの仕立て屋さんのマダムは手際よく仕立てていく所作が本当にかっこよかったです。採寸も製図も縫製もすごく効率的でした。日本で精緻な洋裁教育を受けた私にとっては、生地に直接チョークでパターンを書いていくのをみて「え、直接!?」ていう、かなりの衝撃でした(笑)洋服づくりの工程を目の前で見ることが出来たことに対する感動。そして作る過程や行為がもっている視覚的力強さ。ミシンを踏む姿や布を着る音のかっこよさや美しさ、布が立体になっていく手品のような光景を見て、洋裁と共に生きる喜びを見出し、この感動を伝導したいと思いました。こうして『流しの洋裁人』としての活動が生まれたのです。」



「流し」ですので


こうして、いろいろなきっかけがあり『流しの洋裁人』の活動をすることになった原田さん。

原田さんはその名の通り、店舗を持たず、流れる先では仕立て、また流れては仕立て、という「流し」の活動です。

裁縫箱を背負って、各地を巡ります。


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これが『流しの洋裁人』が背負って各地を巡る裁縫箱。かっこいい…。


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気になる中身は…


IMGP1478 上段左から 「ペンダント型糸きり(よくものをどこに置いたか忘れるので便利)」「目打ち(指が一本増えるくらいに便利でミシン作業に使用)」「小鋏(仕上げの糸きりに使います。キレ味抜群のブランド)」「ミシンの変押え(勝手に生地を折ってくれながら縫えるので便利)」「ピンクッション」
下段左から 「名刺」「メジャー」「指ぬき(手縫いで使用)」「ピンセット(ミシンの糸通しに用います)」そして、「ぐっすり眠れるおまじないタグ」



こんな裁縫道具たちを使用し、原田さんは仕立てを行います。

そして『流しの洋裁人』の活動は、繊維から糸、生地になるまで国内各地の生地産地の技を見て学び、良い生地を手に入れることからが本当のスタートです。


しかし、残念ながらまだまだ土地土地の生地屋さんとの取引ができていないのが現状ということです。

理想は各産地の生地で仕立てを行うこと。

思うように良い生地が見つからなかった場合、別産地からの持ち込みをしています。


裁縫箱を背負いながら、生地を探すその姿はまさに「流し」の仕立て屋さんです。



仕立ての光景を通して伝えていきたいこと



最後に、原田さんはこう話してくれました。

「国内のアパレルでは高度経済成長期に完成したシステムを維持してきましたが、それは現代においてあらゆるところで無理が生じてきています。良いものが絶滅したり、変に搾取されているな、と感じています。服は自然を扱うのと同様に変化に富み、それこそ機械でポンと成型できるようなものでもありません。目の前で作られていく過程をみることで手に取る服に少しでも思いを巡らしてほしいです。」



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まだまだ始まったばかりの原田さんの『流しの洋裁人』。

今後のことを伺ってみました。


「自分のペースで、無理のない範囲でこの活動を続けていければと思っています。「流れ」た先での人や生地との出会いを大切にし、お客様一人一人に合わせた洋服を仕立て、その光景を楽しんでもらいたいですね。」


知らない人、知らない土地、そこにはそこだけにしかない特別な1着が。



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突然、親しみやすい笑顔で、とても楽しそうに洋服を仕立てている女性が現れたら、

近くに背負える裁縫箱がきっとあると思うので、探してみてください。

Ohariko Travellerと書かれ、歩きながら裁縫をしているシルエットの横断幕も目印です。

目の前で自分のための一着が出来上がっていく喜びを提供し、ただのモノではない服が作られる光景を伝導するため、

流しの洋裁人は今日もどこかを流れます。



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「流しの洋裁人」


Ohariko Traveller 原田陽子

Twitterアカウント @OharikoTraveler

※流しの洋裁人の活動は不定期での活動となっています。


取材協力 
ファッションコワーキングスペース『coromoza fashion laboratory

〒150-0001
渋谷区神宮前6-33-14 神宮ハイツ408
営業時間:10:00-22:00
TEL:03-6450-5560
MAIL:info@coromo.jp
HP:http://za.coromo.jp/





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Profile
石崎孝多 / Kouta Ishizaki
フリーペーパー専門店「Only Free Paper」元代表。新聞のみの「Only News Paper」、Amazonにない本を紹介する「nomazon」、 漫画と音楽の企画「ミエルレコード」(OTOWAとの「紙巻きオルゴール漫画」で 第17回文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 審査委員会推薦作品選出)、 原宿THE TERMINALでの「PRESSROOM」ディレクターなど、 様々なプロジェクトに関わりながら企画、執筆、ディレクションなどを行っている。
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Writer:Kouta Ishizaki
Editor:Atsushi Shimizu
Photo:Shinya Rachi(Photographer
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