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その絵本はどのようにつくられたのか?



長年愛され続けている名作絵本、今後長く愛されるであろう新しい絵本、
感性を刺激する独創的でユニークな絵本など、魅力的な絵本にスポットを当て、
その絵本の「つくり方」をご紹介していきたいと思います。


第一回目は、2013年のブラティスラヴァ世界絵本原画展で”金のりんご賞”を受賞した、
きくちちきさん作の絵本「しろねこくろねこ」をご紹介します。


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今回は、きくちちきさんによるはじめての絵本出版の企画・編集を担当された
学研教育出版の木村真さんに、
ART&MORE編集部の清水と、若手絵本作家の西村祐貴さんの二人でお話を伺いました。


絵本と編集者

書店で販売されている絵本と、作家個人で手製本された絵本を比べたとき、
純粋な作品の良し悪しを別にすれば、
前者の方が、広がる力や、メディアとしての影響力を強く持っています。
そこにある「差」ってなんだろうと考えたときに、
編集者という存在が浮き上がってきました。

「どのような内容にしたら、たくさんの人に受け取ってもらえるか…、
デザイナーは誰にしようか、印刷色はどう調整しようか、
完成してからの配本をどのようにコントロールするのか…。」など、
絵本作家一人では及ばない広い視野や、考えや、販売の作戦が
編集者によって作りだされているのです。

木村さんいわく、編集者とは、絵本作家に対する「助産師さん的存在」
だといいます。
ただ消費されていくような絵本ではなく、
読み続けられる絵本、美しい絵本をどうしたら産み出せるか。
これを絵本作家と二人三脚になって、ずっと考え続ける職業なのだと思います。

より多くの人に作品を見て欲しいと願う作家やアーティストこそ、
編集者の視野を知っておくと、もっと世界が広がるのではと思いました。
今回は、編集者目線で「作家と編集者の関わり方」をインタビューすることで、
その絵本のつくり方を探っていきたいと思います。



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「しろねこくろねこ」編集担当の木村さん




「チャレンジをしていかないと、あたらしい作家は育たない」



木村真
編集者。(学研教育出版 幼児・児童書出版事業部)
これまで200冊以上の絵本や雑誌その他書籍などの企画・編集に携わる。
『Pooka』『おはなしプーカ』の編集長を務める。
一部挙げると、『いつでも会える』(菊田まりこ)『やさいさん』『ぼうしとったら』(tupera tupera)
『わらうほし』(荒井良二)『思いつき大百科辞典』(100%ORANGE)『ハンドブック 』(江口宏志) など。





『しろねこくろねこ』 出版のきっかけ



編集部:
これまで木村さんは数々の絵本を手がけられていますが、
今回は「しろねこくろねこ」についてお伺いさせていただきます。
清水は編集者的な視点で、西村さんは絵本作家の目線でお話しを聞かせて頂ければと思います。

まず、作家さんがまだ無名の時期に、
最初に市販の絵本を出版しようと思ったきっかけを教えていただけますか?


木村さん:
基本的には知名度のある作家さんに依頼する仕事が多いのですが、
新しい才能の発掘も大切にしています。
でも、すでに活躍している作家だけだと、未来がなくなるというか。
何十年もの歴史のある児童書専門の出版社と比べると、
市販の絵本の歴史の浅い弊社はチャレンジをし続けなければいけない会社でもあるので、
ミッションとしてあたらしい作家を探しています。

あとは個人的に絵を見るのが好きなので、
仕事にならなくても面白いな、と気に入った人がいたら、
なるべく個展の知らせがあったら足を運ぶようにしていて、
きくちちきさんもそのうちのひとりでした。

最初にきくちさんの作品に出合ったのが6次元。
私家本がいくつか置いてあって、
6次元の方からもこういう面白い方がいますよとお聞きしていて。


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きくちちき作の私家本


木村さん:
最近は、自費で自分で絵本を作られる方が多いと思います。
普通はできるだけ安くできる印刷会社に頼んで作ると思うけど、
きくちさんの場合は、手製本で、受注生産というやり方が面白かったし、
クオリティの高さが他の作家さんと違うと思いました。
その後、お茶の水のトライギャラリーさんで個展をやっていると聞いたので、
どんな方なのかな、と会いに行きました。
そのときはまだ、すぐに絵本をつくるという話まではいきませんでしたが、
「なりそうだな」という予感はしました。
最初に出会ってから出版までは2年くらいかかりました。





私家本 『しろねこくろねこ』



編集部(西村):
私家本と出版された本とは絵柄が大分違いますよね。
描き直されたと思うんですが、これは木村さんの方から描き直すように依頼されたんですか?
それとも、きくちさんの方から描き直したいという希望があったんですか?


木村さん:
きくちさんはぼくの編集した絵本を見てくれていて、
本人と会ってやる気も感じたので、なにかやりましょうという話になったんです。
いくつかの私家版の中で「しろねこくろねこ」が一番気に入りましたが、お話はもう少し良くなるかな、と感じたので
ストーリーをまず変えることにしました。
私家版はサイズも小さかったし、原画も小さいので、
「絵も描き直すことはできる?」 って聞いたら、「頑張ります」と言ってくれたので
全部最初からやろうということになりました。
ただ、一度仕上がっているものだし、完成度も高かったから、
0から作るのとは違って、セルフリメイクの難しさはあると思っていました。


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私家本 『しろねこくろねこ』


そこから先は、普通の絵本を作るのと同じです。モノクロのダミーを作ってもらって、
それを何回も描きなおし、絵本の設計図をつくり込むやりとりをほぼ2年続けました。





『しろねこくろねこ』 のつくり方



木村さん:
ダミーにOKを出した段階で「デザインをどうしようか」ということになり、
二人ともお願いしてみたい方で、菊地敦己さんという名前が出てきました。
依頼をしたところ、快く引き受けていただけることになりました。
そこから、まずサイズはどうするかということになり、
最初の束見本はこのくらいのサイズ(下写真の右)で菊地さんにご提案いただきました。
でも、大きな原画を見たら、絵をもっと大きく見せたいということで、
最終的にA4正寸(下写真の左)になりました。


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『しろねこくろねこ』の束見本


編集部:
後半のカラフルな場面の発色が素晴らしいですが、色校正は何校までかかりましたか?


木村さん:
紙とインクの相性を見るテストプリントを1回。
あとは初校、再校、三校の3回。最後は出張校正で刷り出しを確認しました。


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編集部(西村):
この絵本を出版する上での対象年齢はどのくらいでと考えられていたんですか?


木村さん:
この絵本の場合、もちろん子どもにも読んでもらいたいのですが、 
そもそもベースになった私家版が対象年齢をあまり意識していなかったので、
1300円から1500円という一般的な絵本の価格帯を度外視して、
絵とか絵本の佇まいを支持してくれる人にまず買っていただきたいと思いました。
絵本は売値を1300円にして4000~5000部くらい刷るのが一般的なのですが、
この場合は単価を倍にしておいて、2000部売れれば採算がとれるようにしようか考えたんで、
2500円というすごく高い価格になっています。


編集部(西村):
値段は、造本が凝っているから高くなった、というだけではないんですね?


木村さん:
値段はある程度高くなってもいいですとデザイナーに伝えて
造本設計してもらっています。
箔押し、背表紙の布張り、ケースなど、用紙の選定も含めて。
あと、やっぱり刷り部数は価格に大きく影響します。


編集部(西村):
結果的に売れ行きはいかがですか?


木村さん:
部数的には、重版はかかっていますが、
ヒットという形まではなってないですね。


編集部(西村):
ただ、すごく注目されていますよね。
本屋で見た時に「すごい人が出てきたな」という印象を受けたんです。


木村さん:
そうですね。
作家を売り出したいということで、あえて
そういうことをやっていたりする部分もあります。
デビュー作ということもあって、これを見て、
他の編集者も頼みたいなと思ってくれたらいいと思う役目もある本だと思っています。
今まで2冊出ていて、次の新作が4作目になります。
実際にどんどん声がかかっている作家になっています。

折角美しく仕上がった「しろねこくろねこ」で何か出版関係の賞を狙いたいなと思って、
ボローニャ児童賞や、造本コンクールなどに応募しました。
そうしたら、思いがけずブラティスラヴァ国際絵本原画展で
”金のりんご賞”を受賞することができました。


編集部:
受賞のニュースが届いた時は、どのような心境でしたか?


木村さん:
これは2年に一度の賞ということもあり、狙って取れるものではなくて、
絵本業界ではノミネートされるだけでも栄誉なことです。
2013年は井上洋介さんや荒井良二さんなど
日本を代表する絵本作家がノミネートされているなかでの受賞だったので
二人ともびっくりして、嬉しかったです。


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編集部:
最初に6次元さんで「しろねこくろねこ」を拝見した時、
新人作家さんとは思えないクオリティで、デザイナーも同じ名字の菊地敦己さんというのも面白い組み合わせで、
皆川明さんも帯にコメントを書いて推していたりなど、鮮烈な印象を受けました。

装丁から何から全てがマッチしていて、シンプルでありつつも、
中を開くと何十年と変わらず大人にも楽しまれるであろう絵でありストーリーであり、
買った人の手元にいつまでも残るものになりそうですね。


木村さん:
それを願ってぼくらも作っています。
目指すところはデザインを感じさせないデザインだったり、
普遍的でシンプルなものです。
そういう願いをこめつつも、
読者の手に渡ったら、それは読者のもので、
読者が完成させるものだと思って作っているんで、
そういう余地があるものを意識してやっています。


編集部:
この本を皮切りにいろんな出版社さんから、ちきさんに声がかかることによって、
他社さん含めてちきさん本が世の中に増えるので、
結果それが残り続けるということなんですが、
仕掛けた編集者さん本人としては、逆に仕事が頼みにくくなってしまうのでは?


木村さん:
そういう恐れもありますね。でもそれはいいんです。
出発点としては小さなところなので、
一社だけ、一編集者だけが気に入るだけでは食べていけない世界なので。
だからどんどん頼んでくださいって感じで。


編集部:
ちきさんもかなりのご活躍で、これだけ目立ってもまだ絵本だけでは厳しいんですか?


木村さん:
絵本は年に1,2本出せればいいペースだと思うので、それだけだと厳しいと思います。
絵本を見て装画を頼んでくれてもいいし、
デザイナーさんに見てもらっていろんな仕事がくるといいなと思って、
いろんな人に紹介もしたいなと思ってるんですけど。





『レオ・レオーニ 希望の絵本をつくる人』
まるさんかくぞう
『オーレ・エクセル イン モーション』
『ハーブ&ドロシー』
『木のうた』
『きりのなかのサーカス』
『ママのスカート』
『かさ 』
『ブルックリン・ネイバーフッド』
『Casa BRUTUS 2013年 12月号』
『ファンタジア』