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7.お店を作るのはお客さん



荒木さん:
それでなんだかんだで、ひさしぶりにお金があって(笑)。
なんとなくチェコに行ったんです。
別に買い付けとかじゃなくて。


編集部:
どのくらいの期間行かれたんですか?


荒木さん:
そんなに長くないんだけど、
10日とかそのくらい。
で帰って来てからは、とくに何もしてなかったですね。


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編集部:
新しいお店の準備とかは?


荒木さん:
お店は別に探していたんですよ。
ここは倉庫として一時的に借りていただけで。
でも最悪ここでもお店できなくないなあ、という思いがあると…
最悪になるんですよ(笑)。


編集部:
わはは(笑)。


荒木さん:
どんどんお金なくなってしまって、
別なところを借りれる感じじゃなくなってきて。


編集部:
そのとき絵本の在庫はあったんですか?


荒木さん:
まだなかったんで、また集めはじめて。
そのときって、前のお店がすごく嫌いになっていて。
自分がつけてた4年前の値付けの感覚がまだのこっているのが嫌で。
そういう意味で一回あたらしくしようと。
だから同じ本を仕入れることになっても、同じ本じゃないんですよ。
感覚として。それがまっさらになったのがうれしくて。
全部、最新の自分の、最新の好きなものばっかりが並ぶわけです。
それがすごく気持ち良かったんですけど。


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荒木さん:
お店閉めた時に、
「またどっか別なところでやりたいと思いますので、よかったらご連絡先を〜」
みたいなポストを店内に設置していたんですけど、
ありがたいことに二百数十人くらい入っていて。
それで「オープンします」メールを一斉に送って…。


編集部:
お店をクローズした後も、応援してくださる方々が大勢いらしたのですね。


荒木さん:
そしたら結構来てくれたんですけど、
なんかスルーなんですよ。
半年のブランクがあって、その間、お客さんとのやりとりがなく
たぶん独りよがりな雰囲気になってて。


編集部:
ああ、なるほど。


荒木さん:
けっこうしばらくショックでしたね。
みんなスルーすると思って。
それで軌道修正に2ヶ月間くらいかかって。
やっぱり、お客さんとのやりとりの中で調整しなきゃいけなくて。
自分だけじゃなんにもできないんだな、という。


編集部:
それって一番はじめの質問にあった、
セレクトする上でのポイントは、という
答えにもつながりますね。


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荒木さん:
お客さんとのやりとりの中で軌道ができあがって
そこに導かれていくものがあって。
だから、ぼく単体でやるとそういう「スルーされてしまう」結果に
なっちゃうんですよ。
お客さんに教えてもらいながら、それに答えていくっていう。


編集部:
ある意味では、今のこの本屋のセレクトって、
今まで来たお客さんと接することで生まれているという。


荒木さん:
そうそう。
どっちかっていうと、作ったのはぼくっていうより、
お客さんですね。
だから、ぼくが一人でなにかを選ぶよりも、
いろんな人たちが見てきて、
いろんな人たちがいいと言う本があることの方が、
みんなに伝わりやすいっていうことです。






8.これほどシンプルなお店はない?



編集部:
お店を始める時に「絵本に関わる仕事がしたい」と伺ったのですが、
荒木さんは、きくちちきさんの絵本(私家版)も出版されていますよね。
もともとやりたかったことは、絵本を作ることでしたか?
それとも、今のように古本屋を営むということでしたか?


荒木さん:
ほんとに何でもよかったんです。
あの、いろんな商売があるなかで、
たとえば、古本とかリサイクルの商売って、
仕組みとしてはものすごく簡単だと思うんですね。
人間の蓄積されて来た英知を使わなくても、できると思うんです。


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編集部:
純粋なシステムとしては(笑)。


荒木さん:
もうシンプル。
ぼくの中では商売って言うと「店」をさしているんですね。
ビジネスっていうと「会社」をさすようなイメージなんです。
ビジネスって間接的にお金を動かしている感じがするんですよ、
直接的ではなく。
ぼくにはそのイメージがまったくできなくて。


編集部:
ああ。なんとなく分かります。


荒木さん:
モノを売って、直に人からお金を得る。
これしか思いつかなかったから。
モノを作れるわけでもないし。
あるものを売って、お金を得る、と。


編集部:
確かにその方が感覚としてより直接的ですよね。


荒木さん:
たとえばこれが新品だと、どっから仕入れればいいのって
考えなきゃいけないわけです。
でも古本だったら、持っている人から買い取ればいい、という。


編集部:
めちゃくちゃシンプル(笑)。


荒木さん:
新品を仕入れようとすると、会社組織がいるわけです。
会社に怒られるかもしれないっていう(笑)。
それに期限とかあるかもしれないし…。


編集部:
そんなこと考えていたんですね(笑)。


荒木さん:
だから、「目利き」ってところで、他よりも頭ひとつ上にいこうとか、
そういうことになって行くんでしょうけど。
でも商売の仕組みとしては結局シンプルだから(笑)。
誰でもできるものだと。
まあでも、実際やってみると、
大概は難しい結果になると思いますけど。





9.きくちちきさんの絵本



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『つながる』(2013年/私家版/えほんやするばんばんするかいしゃ刊)
作・絵:きくちちき



編集部:
先程もちょっとだけ絵本の出版について触れましたけど、
荒木さんがきくちちきさんの本を出版しようと思ったきっかけは何だったのですか?
それって、お客さんから買い取って、それを売る、というのとは
また違う流れだと思うんですが。


荒木さん:
それについては単純に図録的な感覚しかなかったんですが。
ただ、もっと長期的な視点でいえば、
ちきさんの本を、手製本に変わるものとして作っていかなきゃいけない
っていう危機感のようなものがあったんです。


編集部:
出版したいというのが先ではなくて、
きくちちきさんの本がありきで。


荒木さん:
そうそうそう。


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『しろねこくろねこ』(2012年/学研教育出版刊)
作・絵:きくちちき






10.ただ絵本をおいているお店



荒木さん:
絵本に関わっていければといい、という気持ちがあったので、
そもそも絵本屋になるつもりも、古本屋になるという覚悟もなくて。
そう名乗ることが他の方々に申し訳ないという感じで。
…でも自分はどっちなんだろうと思いながら。


編集部:
はい。


荒木さん:
古本屋っていうと修行して、いろんなスキルを得て、
こだわりとかもったり…。
ぼくにはそういうのはないし。
絵本屋だったら、もっと子供をみていて、子供のためにやろうとしている。
でもぼくは子供のためにやっているなんて、お世辞にも言えないし。


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荒木さん:
どっちでもない。
でも世間的にはどっちかだと思われている。
だからぼくもどっちかだと思わなきゃいけないという
気がしてたんだけど、
ずーっと分からないまま10年過ぎて。
で、ちきさんの本はそのときに出たんですけど、
うちで出版してみてようやく分かったことがあって。


編集部:
分かったこととは?


荒木さん:
今まで絵本屋なのか古本屋なのか、2択で迷ってたところに
3択目が出てきたことにより、そのバランスが崩れたんです。
結果、「あ、そうだ、最初思っていた通りで正しかったんだ」って思えて。
うちは”絵本を置いてるお店”だってこと。
それだけ。


編集部:
それだけ(笑)。


荒木さん:
ほんとうにそれだけ(笑)。
絵本屋ってことじゃなくて、絵本を置いているお店。


編集部:
「ただ、ある」みたいな。


荒木さん:
はい(笑)。
そこに、ヘンに気持ちとか入れずに、絵本が置いてあるんです。
これが自分にできることかもしれないな、っていうのを、
10年経って気がついたんです。
出版社でもないし、絵本屋でも古本屋でもない。
「絵本をおいてあるお店」としては自信をもって
やっていけそうだと思って。


編集部:
はい。


荒木さん:
ネーミングが難しいんですけど。
いまのところ「絵本が置いてあるお店」がしっくりくる。


編集部:
なんかその、絵本屋でも、古本屋でも、出版社でもないって、
いわゆるアンチみたいなことだったり?


荒木さん:
アンチじゃない、アンチじゃない!
彼らにすごく敬意を表した上で、
ぼくにはそこまでのことができないから。
まず他のお店と比べられること自体が申し訳ないし。


編集部:
その姿勢はすごいですね。


荒木さん:
「うちは絵本が置いてある」だけだから(笑)。
ある意味、逃げでもあるんだけど。
そこに文学もないし、絵画もないし、アートもないし、
絵本しかない、というだけでいいという。
絵本が芸術だと思えば、芸術だろうし。
ぼくが売るのは絵本だけであって、それ以上のことは
なにもないっていうか。そっから思うことは自由で
ぼくはそれ以上関われない(笑)。


編集部:
はい(笑)。
ほんとにプラットフォーム的な。


荒木さん:
とにかく逃げですよね。
そういう論争における責任をさらさら持ちたくない(笑)。
絵本という物体を売ってる。

いまここに本が並んでるという現実が、結構楽しいから。
それぞれ、いろんな理由があってここにあるわけですけど、
その理由を喋ることも面白いかもしれないけど、
ここに、いま、ある、という本を見てあげるのが、
大事なのかなあ、と思ってるんですけど。


編集部:
いろんな国や、時代を巡り巡って、
いまここに並んでるって思うと、それはまた古本に対する
ご縁とか、出会いだなって感じますね。
本日は長いお時間、どうもありがとうございました。


荒木さん:
ありがとうございました。





*インタビューはこれで終わりですが、
 「ロシアの絵本展」(2014年6月~7月中旬まで同店にて開催)で展示販売された貴重な”初代チェブラーシカ”の本と、
 「荒木さんおすすめの本」2冊をご紹介します。






『レオ・レオーニ 希望の絵本をつくる人』
まるさんかくぞう
『オーレ・エクセル イン モーション』
『ハーブ&ドロシー』
『木のうた』
『きりのなかのサーカス』
『ママのスカート』
『かさ 』
『ブルックリン・ネイバーフッド』
『Casa BRUTUS 2013年 12月号』
『ファンタジア』