「othello」vol.03

「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

茨城県。わが愛しの故郷。公式キャッチフレーズ、「漫遊空間いばらき」
漫遊とは「気の向くままに各地を回って旅する事」と、あります。どうぞぐるぐる回っていただきたい。



「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

しかし、極めて信憑性の低い(そう思いたい)とあるアンケートの結果を見る限り、
茨城は、魅力のない県だと烙印を押されてしまった。漫遊なんてできる場所じゃないと。


「何言ってやがんだ」県民は机をたたいています。
観光地だってありますよ。名産品だってある。水戸黄門だって、知らない人はいない。



「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

そしてなにより、茨城には方言があります。
観光地や名産品は、それこそ漫遊していただきたい。しかし、方言に関しては、どこそこに行く必要すらありません。
茨城に着いたら、たった一人に声を掛ければいいのです。ただ、初めて茨城にお越しになる方は海外旅行よろしく、多少なりの不安もあるでしょうから、今回はこの場を借りて茨城をすこしだけ知ってもらおうというわけだ。



「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

茨城県は、東京から県庁所在地の水戸まで約100キロ。東京駅から高速バスで約90分。日本地図で見ればほぼとなりに位置し、地球儀で見れば一緒ですこんなものは。そんな微かな距離の間に、言葉の違いがあるのです。



「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

東京の言葉を標準語なんて呼ぶ方がいますね。私は白言語と呼んでいます。万人の規範となる、明白な言葉。
逆に茨城の言葉を、黒言語と呼んでいます。何色にも染まらない、混色不可言語。



「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

混色不可言語。ではあの名フレーズ「すっかり染まっちまったな」とは?



「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

地方出身者は、上京の際に「お前は故郷を捨てるのか?」と問われます​。そうだと答えれば「売国奴」ちがうと答えれば、証明しろと言われます。そこで、上京する者は郷土愛の証として、愛国心を半分置いていくのです。結果、言語の力は50%半減し、黒言語はグレー言語に。なんの為にそんな事を?これはようするに、東京になじむ為なんです。真っ黒ではなじめない。ですから、こうやって東京の入り込む余地をつくる。一見厳しい問い詰めのようにも思えますが、これは戦地に赴く友の無事を願う、限りない優しさなんですね。

「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

やがて許容地に東京色が侵食し、「すっかり染まっちまったな」となるわけです。これは「うまくやってるな」と言い換えることができるでしょう。ただ、そのまま東京に返すわけにはいきません。個人差もありますが、田舎者が東京色に染まる迄、平均約7〜8ヶ月。4月に上京した者は、年末にはいい感じに染まって帰ってきます。ですが、ようは許容地内の話なので、特に問題はない。ただ、ここから先はグレー言語に侵食する可能性が出てくるので、それを阻止する必要があるのです。



「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

これは茨城に限った話ではありません。地方各地には「染め者」という職人たちが存在します。彼らの役割は、上京者を里帰り期間中にしっかりと塗り直すこと。彼らはより発音の良いアクリル言語を使うことで、上京者の言葉を塗り直すだけでなく、より目立つようにするのです。

「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

上京者には東京での生活もありますから、グレー言語の部分だけきっちりと黒言語に上塗りをし、あえて白言語許容範囲は残しておきます。こうして侵食の懸念を解消しつつ、上京者は白言語許容範囲内で東京色の濃度も高めていきます。この過程を経て、上京者はバイリンガルに。この「バイリンガル上京者」の生産こそが染め者に課された本来の目的「共存」なのです。

「othello」vol.03 © Kotaro Takayanagi

バイリンガル上京者。彼らが方言を効果的に使う事により、東京に言葉のノイズが生まれます。このノイズが波及し、東京の冷たく固い輪郭線は、少しやわらかく、丸みを帯びていきます。東京にあたたかみを持たせるのは、こういった新人類のパフォーマンスと、それを可能にした各地の染め者達の技術のおかげなんですね。



とまあ、茨城の予備知識のはずがこんなことに。そうです。茨城に行くのに、予備知識なんていらないんです。
どうか気の向くままに、各地を回ってみてくださいね。それでは皆様、よい旅を。





高栁 浩太郎 / Kotaro Takayanagi
東京在住。起きている時は眼鏡をかけ、寝ている時はふとんをかける
目が悪く、寝相のよいイラストレーター
2013年 第2回 東京装画賞/銀の本賞(一般部門)
2011年 玄光社 イラストレーション ザ・チョイス 第176回/入選(中村佑介 選)
2011年 誠文堂新光社 イラストノート第12回 ノート展/審査員賞 有山賞(有山達也 選)

http://www.minato8.com/



© Kotaro Takayanagi



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