名店手帖 vol.09「クルミドコーヒー」



このカフェをボクらの娘のために



名店手帖 vol.09「クルミドコーヒー」 © ART&MORE



「何かをやるにあたって、内側でもあり、外側でもある『まちのお座敷』のような場所をつくりたい。それを現代風にいうのなら『カフェ』なんじゃないかとは、最初から考えていました。そこで、当時お客さんとして通っていたカフエ マメヒコさんに出店のお願いをしたのですが、オーナーの井川さんからは『影山さんがやりなさい』と。そうでなきゃきっとうまくいかないし、やるとなれば全面的に協力するから、と。僕は外資系コンサルティング会社、ベンチャーキャピタルという職歴で、カフェ自体についてはよくわかっていませんでした。何をどうして良いのかわからずの僕に、井川さんは何から何まで相談に乗ってくださって、企画書を作ってくれました。その企画書を拝見したとき、本当に驚きました。僕も今まで本当にたくさんの企画書を作ってきましたが、すべて手描きのこの企画書には、内容もさることながら、“本当に大切なこと”が描かれていたのです。」



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企画書にはこうあります(※一部抜粋)。



このカフェを、ボクと影山さんの娘のために作ろうと思う。

結局、西国分寺のためというのがどんなものなのかわからない。

だから、ボクらの娘がもう少し大きくなって、楽しめるカフェを作ってみたくなりました。

わたしの街にも、こんなカフェがあればいいと思えるものにしたい。

本当の子供のカフェを、愛娘のために作ろう。




「この企画書はHPでも公開していますが、本当に心を打たれました。今まで自分が作ってきた企画書は一体なんだったのか…、というぐらいに。」

あたたかみのあるタッチで描かれているイラストや文字の数々。

見ているだけでも心が踊り、わくわくします。

そんな夢と希望が詰まったこの企画書を見て影山さんは、この土地でこのお店を、この「クルミドコーヒー」を始めてみよう、と決心したということです。



つながるコミュニティ



名店手帖 vol.09「クルミドコーヒー」 © ART&MORE



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お店を作ると決心してからは、影山さんを始め、数人のオープニングスタッフ、協力してくださったカフエ マメヒコの井川さんら関係者と一からお店を作っていきました。

自分たちでやれる範囲のことはすべて自分たちの手で行い、床を張り、壁を塗り、オープンへ向け準備の日々が続いていきます。

「最初は全く好きではなかったこの土地に、こうして一からカフェを作ってみて、様々な経験をしました。井川さんの企画書から始まり、経験をすることで新しい“何か”が見えてきた気がします。そして、多くの人たちと出会うことが出来ました。オープン当初はお客さんは少なかったのですが、徐々に常連さんなども増えてきて、メニューも季節ごとに考えご提供していますし、スタッフも当初の数人から今は何倍にも増えています。」

クルミドコーヒーには老若男女、様々な人たちが集ってきます。

「この西国分寺という街のことが、少しずつ少しずつわかるようになりました。どんな人が生活し、どんな人が働いているのか。日曜日の朝に不定期で開催している、珈琲を片手に言葉を交わす場『クルミドの朝モヤ』、朝ではなく夜に開かれるのは『クルミドの夕べ』、その他に定例で『音の葉コンサート』など、イベントも行っています。小さいものではありますが、この西国分寺に根付いた、小さなつながりがこのクルミドコーヒーから生まれていっています。ここでは日々何かが起こり、何かが生まれているのです。


出会いが次々と生まれる場となったクルミドコーヒー。偶然の出会いも多く生まれていきます。

そんな偶然の出会いが生んだものの一つが、『クルミド出版』でした。



100年後も残る本を



名店手帖 vol.09「クルミドコーヒー」 © ART&MORE
『やがて森になる』小谷ふみ著、『10年後、ともに会いに』寺井暁子著の2冊の本。


「2013年2月に『クルミド出版』として、2冊の本を世に出しました。出版社と言っても、このカフェから生まれた小さな小さな出版社です。著者の小谷さん、寺井さんはお二人ともクルミドコーヒーのお客さんです。スタッフ含め、僕も“本を出版する”経験はない、言ってしまえば素人です。なぜ本を出すことになったのか。それはやはりこの場所から生まれた偶然で、著者の小谷さんはご自身のブログなどに600以上の詩やエッセイを書きつづってこられており、寺井さんは丸1年に及ぶ、友を訪ねる世界一周の旅から帰国したばかりでした。お二人のお話を聞いたとき、純粋に応援したいと思い、『一緒に本を作ろう』とご提案したのです。」



出版の経験が全くないゼロからの本作り



影山さんと、日々奮闘したクルミド出版チームの手によって2冊の本は完成しました。

「小谷さんの本の印刷をお願いしたのは『九ポ堂』さんです。昔ながらの国分寺の家並みの中にある活版印刷所です。2冊の本の製本は長野の『美篶堂』さん。印刷、製本ともクルミドコーヒーを通して出会った方々にご依頼しました。長い時間をかけ、丁寧に作ることを心がけました。それはこのクルミドコーヒーでやってきたことと同じで、僕らにはそれしかできないのです。」


影山さんは話します。

「小谷ふみさんの『やがて森になる』は実は三種類あります。九ポ堂「通常版」、九ポ堂創業者の酒井勝郎さんが残した30年以上前の貴重な古紙を使用させて頂いた「古紙版」、横尾寿永堂版の三種類です。九ポ堂さんは、書籍の本文印刷の経験はなく、印刷機ではなくおじいさまから引き継いだ昔ながらの校正機を使い、1回1回ペダルを踏んで印刷してくださいました。100冊の本を印刷するのに、ざっと6,000回はペダルを踏まねばならない計算になります。美篶堂さんも1冊1冊、手での製本。そしてその手間は費用にも跳ね返ってきます。でも人が、思いと手間をかけて作ったものには『熱』がこもるし、それはきっと受け取ってくれた人にも伝わるだろうと思うのです。」





『レオ・レオーニ 希望の絵本をつくる人』
まるさんかくぞう
『オーレ・エクセル イン モーション』
『ハーブ&ドロシー』
『木のうた』
『きりのなかのサーカス』
『ママのスカート』
『かさ 』
『ブルックリン・ネイバーフッド』
『Casa BRUTUS 2013年 12月号』
『ファンタジア』