名店手帖 vol.08 「世界の木の実と雑貨 小林商会」

名店手帖 vol.08 「世界の木実と雑貨 小林商会」

名店。人気の店、有名な店、行列が出来る店、そして歴史がある店。
名店の形はさまざまです。

この「名店手帖」ではそんな名店も、それとは違った形の名店も、
今後名店になりそうな予感のする魅力的な名店(未来の名店)もたくさんご紹介していきます。


今回ご紹介する名店は、世界中の木の実を扱う、なんとも珍しいお店。
『世界の木の実と雑貨 小林商会』をご紹介します。



偶然の衝撃



今回も僕がすでに何度か足を運んでいるお店をご紹介します。

Twitterか何かでそのお店を知って、でも最初は足を運ぶことが出来なかったそのお店。

足を運ぶことが出来なかった理由は、期間限定の出店だからです。
神保町の古本屋『ブック・ダイバー(BOOK DIVER)』に、そのお店は半年に一度、2日間だけ出店します。


世界の木実と雑貨 小林商会
神保町の秘境と言われる古本屋『ブック・ダイバー』。取扱ジャンルは「硬派なサブカルチャー」で神保町でいちばん夜遅くまで開いている古本屋とも言われています。ここもかなりの名店なのですが、今回はブック・ダイバーさんの取材ではありません。


世界の木実と雑貨 小林商会


比較的空いているという時間にお伺いしたのに、今回もすでに人だかりが出来ていました。
今回で3度目の訪問になりますが、最初足を運んだときは、全く見たことのない数々の木の実たちに驚くばかりでした。


世界の木実と雑貨 小林商会
『ヒマラヤ杉の実(ドライ)』『ソロロカフラワー』『ミニドリアン』『レザーナッツ』『ツノゴマ』『バンクシアの実』などが並ぶラック。このカラーバランスもなんとも言えない良さがあります。隣のステンレスラックには、アメリカ産、イタリア産などの松ぼっくりが。


世界の木実と雑貨 小林商会
小さな木の実は小分けしてディスプレイ。『ボタンナッツ』『タイニーバオバブの実』『まだらハンバーガービーン』『モダマの豆』など20種が並ぶ。


世界の木実と雑貨 小林商会
ざるの上にも珍しい木の実たちが。カラフルな『インディアンコーン』が目を引く。


世界の木実と雑貨 小林商会
本当にたくさんあります。クリアケースに入った『ライオン殺し』(アフリカ産)、
回転する種として有名な『フタバガキの種子』(タイ産)はサイズ別に数種類取り揃える。




最初に足を運んだときからこの木の実たちにずっとわくわくしっぱなしでした。

この木の実たちは一体…。店主さんにお話を伺いました。



普段はジャム屋です



見た事もない数々の木の実を取り揃える小林商会さん。

店主の小林智洋さん(34)の普段の仕事はジャム屋さんです。

長野で『ジャムこばやし』の三代目としてジャム屋を営んでいます。

なぜ、ジャム屋さんが様々な木の実を売る事に?

「木の実が好きなことは好きですけれど、一言で言うと”成り行き”です。ジャムの原料の果物も木の実ですし、同じ木の実を扱っていると言えばそう言えます。これらの木の実は役にはたたない木の実なんですけど(笑)。食べられるか食べられないかの違いだけとも言えます。」

何かすごくかっこいい言葉を聞いてしまいました。たしかにこれらの木の実は食べられません。

普段は『ジャムこばやし』の三代目として、そして木の実を売るときは『小林商会』として店名を変えているということです。


世界の木実と雑貨 小林商会
とても親しみ易い人柄の小林さん。きさくで優しいお兄さんという雰囲気です。


「成り行きと言ってしまえばそれまでなんですが、でも実はいろいろあって、『ジャムこばやし』でこの『小林商会』で扱っているアメリカやイタリアの松ぼっくりは以前から販売していたんです。僕の前の代から。なぜかジャム屋で松ぼっくりを売っていました。」

国内の松ぼっくりならまだ理解できるのですが、当時から海外の松ぼっくりを販売していたと答える小林さん。
『小林商会』のことはもちろん気になるのですが、話を聞いているうちに『ジャムこばやし』のことも気になってきました。



亡命ロシア人に教わったジャム作り、
『ジャムこばやし』の歴史と『小林商会』が始まるきっかけ



『ジャムこばやし』は1949年に開店。当時は八百屋として様々な人に親しまれていたお店だったのですが、当時の軽井沢には宣教師やロシアからの亡命者を始めとする多くの外国人が暮らしており、その中の亡命ロシア人の一人からジャムの製法を教わり、試行錯誤の末、ジャムの販売を始めました。



世界の木実と雑貨 小林商会
         創業当時の風景。


亡命ロシア人は文明開化後の日本にとても大きな西洋化の影響を与えたそうです。

そうした亡命ロシア人の一人に製法を教わったお店が『ジャムこばやし』です。

「その後、八百屋として野菜と果物を販売しながらジャムも販売していましたが、ジャムの規模はかなり小さめでした。僕の父親が30年程前に帰郷してからジャムの販売に力を入れ始めていきます。八百屋を辞めてジャム専門になったのは約20年前のことです。八百屋の頃から今でも取り扱いがある、変わった形のカボチャやインディアンコーンなどは販売していました。ジャム専門になった頃に父親がどこからともなく今でも販売している大きな松ぼっくりを数種類仕入れてきて販売が始まりました。この松ぼっくりですね。」


世界の木実と雑貨 小林商会
『ジャムこばやし』の歴史を紐解きながら、いろいろ教えてくれた小林さん。手に持っているのは約20年前から取り扱いがある世界最大の松ぼっくり、アメリカ産の『コルターコウン』。



「今この『小林商会』で扱っているほとんどの木の実たちは『ジャムこばやし』の歴史とは関係なく、僕が仕入れたもので、僕が学生だったときに西表島に行ったときにモダマの存在を知りカッコいいなー、と思っていたところ5年程前に偶然タイから運んでくれる人と知り合い、販売を始めました。バオバブの実もカッコいいなと思っていて、これも偶然アフリカにルートのある人と知り合い入手できました。カカオの実や象牙椰子の実なども面白いなと思っていたところ手に入り…、といった感じで、個人的にカッコイイなと思っていた木の実達が、ホントに偶然に思いもかけないような所で見つかって販売を始めることになったんです。」

そんな偶然が重なることってあるのか、と本当に不思議になってしまいますが、偶然が重なり続け、様々な木の実が小林さんの元に次々と集まってきます。

「そういった木の実たちを販売し始めたところ、「探してたんだよ」とか「なんだこれ面白い!」と言ってくれる人が結構いました。父の頃は松ぼっくりだけで主に北の方の寒いところの木の実でしたが、モダマやバオバブ・カカオなどは南の暑いところの木の実。それをきっかけにして熱帯の木の実もぞくぞくと集まってきて面白がってどんどん増やしていきました。そうすると今度はお客さんの方からこんな木の実があるんだよ、とかこんなのが欲しい、とか、こんなの手に入るんだけど買わないか、みたいな話しがあったりしてますます増えました。」

意外なことに、珍しい木の実たちを欲しいと思っている人はたくさんいたようです。偶然発見して、木の実の魅力にハマる人も。

「自分でもホントに不思議なんですが、ある木の実を探しているとスッと目の前に現れることが多い。それとは別に自分から意識的に探したり訊いて回ったりもよくしています。木の実と木の実を交換したりすることも多いです。」

木の実を中心に様々な人達と出会い、次々と輪が広がっていくようです。



南極大陸以外すべての木の実が集結



そんなエピソードがあり木の実の販売を始めた『世界の木の実と雑貨 小林商会』。
改めて豊富な木の実の種類に驚きます。


世界の木実と雑貨 小林商会


世界の木実と雑貨 小林商会


世界の木実と雑貨 小林商会


世界の木実と雑貨 小林商会
「世界の木の実と雑貨」とあるだけに雑貨の取り扱いも。果物・きのこ切手(使用済み)の種類も豊富。



「おそらくこの手の木の実の品揃えとしては日本一かなと思います。そう言っていて、今のところ特に異論がでていないので(笑)。これだけ揃えていると、どこで知ったのか”木の実マニア”の方も沢山いらっしゃいます。この二日間は本当にいろんな方が足を運んでくれますね。」

木の実マニアの方が来るほどのラインナップ。

ですが、マニアの方以外にも数多くの方が足を止め、木の実を購入していきます。

木の実自体の魅力もさることながら、手頃な価格も重要なポイントです。

安い木の実は30円〜購入出来ます。300円前後も数十種類以上あり、高くとも数千円です。

「この手の木の実は他にあまり販売している人がいないので相場もなく、基本的には仕入れ値と経費からそのまま価格を付けてます。現地でその木の実の落ちてる場所に行けばただ落っこちてるだけのものなんですけど(笑)、実際個人でひょっこり拾いに行って拾えるもんでもないですし、手間賃や送料で価格が決まってきます。現地の人でもこっちの足元見て高く言ってくる人もいます(笑)。そして、安いのってなんかかっこいいじゃないですか。個人的に「付加価値」とか「ストーリー」ってのがあんまり好きじゃないので、そのままの価格で販売したいという思いがあります。何をもってそのままというかは意見の分かれるところですが・・・。海外からの仕入れが基本で、仕入れが難しい、商品が珍しいからと言ってあんまり高くもできないですし。もちろん損はしないようにしていますが、円安や不作などもあって苦しんでいます…。それと、検疫に毎回ビビッてます。何度か検疫で焼却処分の憂き目にあっています(笑)」

海外からの仕入れ、そして検疫。相場が決まっておらず、現地に行けば落ちているとは言っても、本当に安い価格で提供している小林さん。


“安いのってかっこいい”

この言葉であり信念は、小林さんが思っている以上に素晴らしいことだと思いました。

また名言を聞いてしまいました。



お客さんからの反応と学ぶこと



「お客さんでたまに、この木の実は食べられるんですか?などの質問をされる方がいらっしゃるのですが、基本的に食べられません(笑)。なので、購入されてからの使い道は飾ることぐらいしかないかも…。発芽しますか、ってのもよく訊かれるのですが、基本的には観賞用です。お客さんから蒔いてみて芽が出たよ、って報告も結構あるんですけど。」

そうは言っても、これらの木の実を購入していく人たちの気持ちはわかります。

何と言っても“かっこいい”ですから。

「“かっこいい”と思っているのは僕もそうで、“かわいい”とは違うような気がします。でもそれはお客さんが思うことなので、結局どちらでも嬉しいです。」

人によって、様々な捉え方でこれらの木の実を見ているようです。

「今でも印象に残っているお客さんの言葉があります。自転車に乗って通りかかったおじさんだったのですが、「これ何かの役に立つの?」と訊かれて「特に役には立ちません」と答えたら「役に立つものはコンビニで買えば良いんだよな!」とだけ言って去っていったおじさんがいました(笑)。あと他のお客さんは、「これ何すんの?」と訊いてきたので「特に何もしません」と言ったら「その答えが気に入った!」と言って買っていってくれたおじさんがいます(笑)。男性の方でうちの木の実たちを見て興奮し、沢山買って家に帰ったところ、奥さんに「こんなもの何するの!?」といって怒られたので返品に来る方も居ました(笑)。本当にいろいろな方がいます。近所のギャラリーの方の名言で「木の実はいいよ、本と違って読まなくていいんだから」というのがあります(笑)。」

名言が生まれる、というか生まれすぎている小林商会。さすがです(笑)。



木の実の専門家はいない



小林さん曰く、驚くことに木の実の専門家は存在しないということです。

「世界の木の実だけを専門に研究している人はどうやらいないっぽいです。木とか草とか花は割と注目されていますけど、何故か”木の実”ってのはあんまり注目されてないんですよね。自分は逆に花よりも実に興味があります」

そもそも、なぜブック・ダイバーさんの前で木の実を販売しているかというと、あるきっかけでブック・ダイバーさんと知り合って『一箱古本市』に誘ってもらい、「古本市には出られないけど木の実なら売りたいです!」と言ったことが始まりだったようです。

それが今から約3年前。

「出店させてくれるダイバーご夫妻には本当にお世話になっています。神保町の秘境と言うだけあって、訳わかんない時から木の実の販売をやらせてくれたことに感謝です。今後は変わらずマイペースに『小林商会』として活動していきたいと思います。ブック・ダイバーさんの前での出張出店は半年に一度ですが、毎回木の実の種類も増えてきています。でも普段のジャム屋も好きな仕事です。あ、よく誤解されるのですが、仕事の割合としては本業ジャムの方が95%です。2つとも本気ということで(笑)。」

あくまで本業はジャムを売ること。でも木の実を売る『小林商会』も本気なのです。

小林さんに改めて、木の実の魅力についてお伺いしました。

小林さんにとって、木の実とは?

「なかなか自分でもちょうどピッタリくる説明は難しいのですが…。存在がなんか冗談みたいな感じでとぼけた味わいがあり、それでいて機能美に溢れていたり、美しかったり、わけわからんような形をしていたりと魅力があります。半分冗談ですけど木の実販売はライフワークです、なんて言ったりもしています。今では木の実販売は自分のアイデンティティーの一部になってしまったようで、木の実販売が全くなくなったら、かなり寂しいと思います。」


好きな木の実が今では生活の一部になっている。

好きなことをやる、というのがどんなことか小林商会さんを見ているとそれがはっきりと理解できるし、伝わってきます。

そしてここまで好きなことがやれているのは、やはり様々な人達の支えがあったからのようです。

「お客さんから木の実のことを教えてもらったり、手配してもらったり、木の実自体を頂いたりと色々お世話になっています。そのおかげでここまで増やせたし、続けてこれたと思います。ホントにありがたいです。自分の販売は表面的なことで、色々なお客さんやら木の実マニア、木の実手配師の方達にかなり支えられています。」

この取材でお話を聞いていたときも、多くの人たちが訪れ、様々な人と会話が弾み、楽しそうだった小林さん。

色々な人たちに支えられているということでしたが、支えたくなる気持ち、すごく良くわかります。

好きなことに取り組んでいる人を見ると、誰もが応援したくなってしまいます。


『小林商会』はそんな名店です。

この名店の輝きは今後も色褪せることなく、様々な人に支えられながら、輝きを増していくことでしょう。

また次回、お会い出来ることを楽しみにしていますね、小林さん。


世界の木実と雑貨 小林商会


世界の木実と雑貨 小林商会




「世界の木の実と雑貨 小林商会」
〒389-0102
長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢710
TEL 0267-42-2622
FAX 0267-42-8892
E-mail info@jamkobayashi.com
HP http://jamkobayashi.com/(ジャムこばやしHP→カテゴリ木の実)
ブログ http://blog.jamkobayashi.com/?cid=30498(ジャムこばやしblog→カテゴリ小林商会)
ツイッター https://twitter.com/kinomi_koba

※木の実はオンラインでも販売しています。
・送料全国一律740円
・価格の変更や品切れの場合もあります
・自然のものですので色や大きさ、形の違い、欠けや汚れなどがある場合がございますが、ご了承下さい
・木の実.露天商といった形で各地出店もしています





_______________________________________________________________________________________
Profile

石崎孝多 / Kouta Ishizaki
1983年生まれ。フリーペーパー専門店「Only Free Paper」元代表。
Amazonにない本を紹介するnomazonを始め、「五感書店」「朝まで本屋さん!」など本の企画、
その他、執筆、選書、店舗のディレクションなどを行っている。
クリエイティブ情報発信のプラットフォーム「ART AND MORE」キュレーター。
_______________________________________________________________________________________



Writer:Kouta Ishizaki
Editor:Atsushi Shimizu
Photo:Shingo Hayashida
Logo :Yuuki Nishimura(NiHo)



名店手帖



© ART AND MORE




『レオ・レオーニ 希望の絵本をつくる人』
まるさんかくぞう
『オーレ・エクセル イン モーション』
『ハーブ&ドロシー』
『木のうた』
『きりのなかのサーカス』
『ママのスカート』
『かさ 』
『ブルックリン・ネイバーフッド』
『Casa BRUTUS 2013年 12月号』
『ファンタジア』