名店手帖 vol.07 「6次元」

名店手帖 vol.07 「6次元」

名店。人気の店、有名な店、行列が出来る店、そして歴史がある店。
名店の形はさまざまです。

この「名店手帖」ではそんな名店も、それとは違った形の名店も、
今後名店になりそうな予感のする魅力的な名店(未来の名店)もたくさんご紹介していきます。


今回ご紹介する名店は、様々な繋がりを生む秘密基地のような空間「6次元」。
カフェと古本屋とギャラリーのブックカフェですが、
このお店は簡単に「ブックカフェ」とは言えないそれ以上の「何か」があります。



すべて受け入れてくれる異次元空間



僕が初めて6次元を訪れたのはちょうど2年前ぐらいだった気がします。
荻窪駅から商店街を抜け、白山神社近くにある1棟の古びた建物。
壁には「ロクジゲン」と書かれた木製の看板がかかっています。


6次元
まな板の裏に書かれた「ロクジゲン」の文字は、
アートディレクター・グラフィックデザイナーの服部一成さんが手掛けたもの。




階段をあがって、1と1/2にある古びた扉を開けると、そこには外の世界とは違う、
不思議な時間の流れを感じることが出来る空間が広がります。



6次元 


6次元


6次元
外には中央線を走る列車の音が聞こえる。



2年前、初めて6次元に足を踏み入れ、店主のナカムラクニオさん(42)に緊張しながらも話しかけました。

するとナカムラさんは僕のことをすでにご存知で、

「どうぞ、どうぞ。いろいろお話ししましょう。」

ときさくに答えてくれました。
狭いカウンターに2人で腰掛け、初対面ながらもおよそ2時間ほど話したことを今でもはっきり覚えています。

6次元は本当に不思議なお店です。

確実に言えることが1つあって、それはただの「ブックカフェ」では決してないということ。




思い切った行動から生まれた



この場所は30 年以上続いた伝説のジャズバー「梵天」、その後は「cafe gallery ひなぎく」と続き、
そして現在は「6次元」となっています。

伝説のジャズバー、人気のカフェ・ギャラリー、その後に6次元が誕生しました。

「ここは以前から人気のお店が入っていた場所です。前に入っていた『cafe gallery ひなぎく』が閉店することを知って、バタバタのなかこの場所を借りました。本当にバタバタしていて、僕は珈琲もろくに淹れることが出来なくて、最初はスタバで珈琲を買ってきて、それを出そう!みたいな(笑)。」


6次元
とても気さくな6次元店主のナカムラさん。
ナカムラさんはフリーランスで映像ディレクターの仕事をしながら6次元の運営を行っています。



「当時勤めていた会社もあったのですが、その会社を辞めて6次元を始めました。ちょうど本当にやりたいことをやろうと思っていた時期で。タイミングが良かったんです。この場所の空き物件情報を知って、すぐ行動しました。やりたいことをやる為に借りたのですが、最初は勢いばかりで、どうして良いかわからずで…。」

本当にやりたいことの為に、思い切った行動をとったナカムラさん。
しかし、そのときとった行動は、当初の心配をよそに、様々な人を引き寄せる「6次元」という新しい価値観をもったブックカフェが誕生した瞬間だったのです。



始まりは実験カレー、そして詩人の谷川俊太郎さん



2008年12月8日、ジョン・レノンの命日にオープン。この日は釈迦が悟りを開いた日でもあります。
今は詩の朗読会、読書会、○○ナイトと題した6次元の人気イベント(書道ナイト、コケナイト、ブータンナイト、屋久島ナイト、山形ナイト、フランシス・ベーコンナイトなどなど。)なども毎月のように開催していますが、オープン当初はカレーが名物だったとか。

「最初はいろんな実験カレーばっかり出していて、完全にカレーのお店でした(笑)。6次元で働きたいと来た女の子がカレーを作るのが得意で。『おでんカレー』『チョコレートカレー』『麻婆豆腐カレー』などを出してて、全部びっくりするぐらいおいしかった。今はカレーはやっていないですが。そんなときもあったんですよ。」

現在のようなイベントが多くなってきたきっかけは、詩人の谷川俊太郎さんが来店されてから。

「俊太郎さんの息子さんの作曲家・ピアニストの谷川賢作さんがいらしてくれて、その後俊太郎さんも足を運んでくださって。谷川さんご家族とは仲良くさせて頂いています。俊太郎さんのお孫さんのスタイリストの谷川夢佳さんとも。」


6次元
この一角は谷川俊太郎さんの本棚。「はだか」「夜のミッキー・マウス」「シャガールと木の葉」「三々五々」
「ことばを中心に」などなど、詩集・散文集が数多く並ぶ。



「これらの本は俊太郎さんご本人が6次元に寄贈してくれた本たちです。」



訪れる人によって“編集されている”



谷川俊太郎さんの本が並ぶ一角を始め、6次元の本棚には実に様々な本が並んでいます。



6次元
本以外にも縄文時代の器や紙のプロダクトなども並ぶ本棚。これらの本は自由に読むことが可能。一部は購入も出来る。



基本的にこれらはすべて6次元を訪れた方々が持ってきてくれる本たち。

「いろんな方が本を持ってきてくれるんですよね。持ち込みというか、提供というか、それとはまた違った感覚でこの本棚は作られています。ちょっとした人間関係図でもありますね。一番近い感覚だと“ボトルキープ”みたいなものでしょうか。だからよく足を運んでくれる人の本は取りやすいところにあったりします。ASYL(アジール)の佐藤直樹さんは夜中によくいらっしゃるのですが話が盛り上がることが多いので、ぱっと手に取りやすいところに本を並べています(笑)。」



6次元
漫画家の大友克洋さんは「大友克洋GENGA 展」の打ち合わせを6次元で行っていたそう。
写真上は公式図録「GENGA OTOMO KATSUHIRO ORIGINAL PICTURES」。下は大友さんが酔っぱらったときに
描いてくれたというサイン。




6次元
こちらは現在のカフェのメニュー。なんと、ブックカバーにメニューが書かれています。
書いてくれたのはムック『マッシュ』(小学館刊)で編集長を務める女優・モデルの菊池亜希子さん。
ちなみに『マッシュ』には毎号6次元が少しだけ登場しています。




この他にもナカムラさんが横尾忠則さんにお会いしたとき、直接サインを頂いたというサイン入りの横尾さんの本が積まれていたり、柳本浩市さん(Glyph.代表)のコーナーがあったり、小説、芸術、絵本、人文、生活とジャンルを問わず様々な本が並んでいます。

「こんなにたくさん本が集まってくるなんて、6次元を始めるまで思ってもいなかったことです。この現象は僕も不思議です。僕はいわゆる“プレミア本”などはあまり気にしないので、価値のある貴重な本でもラフに扱ったりします。本なので、手に取ってもらうことが1番ですから。」

本棚に集まる本を始め、空間を飾るオブジェなども6次元に足を運んだお客さんによって“編集される”ことが多いそう。
常に編集され、進化する本棚と空間が6次元の魅力の1つになっています。



若手作家や小さなコミュニティとの関係性



若手作家との関係も深い6次元。

「若手作家の企画展、イベントなども積極的に行っています。本棚に限らずイベントも編集されている感じですね。最近もいろんなイベントを行っているのですが、中でも『台湾好塾』というイベントはなかなかおもしろいです。“現在の台湾で何が流行しているか?”などをテーマに台湾を紹介するイベントです。『LIP』という方々と6次元が共同企画しました。台湾カルチャーをもっともっと知ってもらう為の月に1 度の塾です。毎回好評で、いつもお店が人で溢れます。」

若手作家とのイベントも積極的に行い、国境を越えてのつながりも生まれています。

「6次元という場所を様々な人に使ってほしいと思っています。それは小さな企画でも良くて、でもそこに“強さ”があるかどうか。僕はずっとマスメディアにいた人間で、でも小さなメディアをずっと作りたかった。ミニコミを制作したいと思っていました。小さなメディアは多くの人に届かないかもしれませんが、一部の人にはしっかり届く。インターネットやSNS の発達によってそれはさらに加速しています。6次元で、小さくても“強さ”があるコミュニティがたくさん生まれてくれるとすごく嬉しいです。」



つながりとコミュニティが次々と生まれる場の秘密



6次元


6次元にはナカムラさん以外にもう1人の店主、道前宏子さん(32)がいます。


6次元
カウンターで作業中の道前さん。


6次元の営業は金曜〜日曜の15:00〜22:00 のみ(イベントは平日も不定期開催されます)。
ナカムラさんは普段は映像ディレクター、道前さんはライターや編集業をしながら2人で6次元の運営を行っています。

ナカムラさんが不在のとき、6次元を切り盛りする道前さん。

僕がたまに6 次元に足を運ぶときも、道前さん1 人がお店に立たれていることが多いです。
道前さんが6 次元を支える1 人であることは、6次元に何度か足を運んだことがある人なら誰もが口を揃えて言うと思います。

道前さん1人が間に入ってくれることで、6次元という場所に訪れる人たち同士のつながりやコミュニティが生まれやすくなっています。

6次元という「場所」でつながり、道前さんを介しての「人」でつながる、つなぎ場としての役割は道前さんの存在が非常に大きいです。



くらやみ書店という実験



僕が一度だけ6次元で開催させて頂いたイベントがあります。

そのイベントの名前は「くらやみ書店」。

本屋を真っ暗にしたらどんなことが起きるのか、本屋の可能性を探る、五感で書店を体感する「五感書店」という企画の1つです。


6次元
2012年3月3日、4日に開催された「くらやみ書店」。6次元店内に本を並べ、視覚と触覚で本を感じるイベント。


BOOKONNの中嶋大介さんと企画し、企画が生まれた翌日に6次元さんに直接話しをしました。

くらやみ書店のアイデアをナカムラさんと道前さんに話すと、

「おもしろいですね。やりましょう!いつがいいですか?来週はどうでしょう?あ、来週は別のイベントがありました…。では再来週で…。」

とすぐに開催が決まりました。

なかなか好評のイベントになり、こういったアイデアをすぐ形にしてくれる場所も6次元ならではだと思います。

様々なコンセプトを持つ6次元。その1つに「実験」というコンセプトがあります。

6次元という空間はあらゆるアイデアの「実験室」でもあるのです。



誰もが主役になれる場所



今回改めてお話しを伺って、印象的だった言葉がいくつかあります。中でも、

「6次元はお客さんが主役なんです。そして、6次元のような小さなお店が今後どんどん生まれるだろうし、生まれてほしいです。」

という言葉が印象に残っています。


6次元、それは歴史ある空間の記憶、生活の記憶を残した魅力的な場所ではあるけれど、
場の素晴らしさ、可能性よりも、「空間」を超える「人」の魅力が溢れた場所だと思います。

ナカムラさんと道前さん、お二人が作りだした空間が人を作り、人と人をつなげ、人を引き寄せる場所、
それが6次元です。

6次元を訪れると誰もが主役になれます。

イベントや展示をすることが“主役になる”ということではなく、
それは“出会い”だったり、“居心地の良い時間を過ごすこと”など様々です。

「ここではないどこか」が感じられる6次元、
今夜も様々な人が集い、新しいつながりが生まれていることでしょう。




6次元
6次元店主ナカムラクニオさん初の著書が10月24日に発売されました。
『人が集まる「つなぎ場」のつくり方 —都市型茶室「6次元」の発想とは』(阪急コミュニケーションズ刊)



「6次元」
http://www.6jigen.com/

営業時間:金曜〜日曜 15:00-22:00 (カフェの営業は不定期になる場合があります。詳しくはHPをご覧ください。)
〒167-0043
東京都杉並区上荻1-10-3 2F
TEL : 03-3393-3539
MAIL : rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp



6次元
『人が集まる「つなぎ場」のつくり方 —都市型茶室「6次元」の発想とは』(amazon.co.jp)6次元



__________________________________________________________________________
Profile

石崎孝多 / Kouta Ishizaki
1983年生まれ。フリーペーパー専門店「Only Free Paper」元代表。
Amazonにない本を紹介するnomazonを始め、「五感書店」「朝まで本屋さん!」など本の企画、
その他、執筆、選書、店舗のディレクションなどを行っている。
クリエイティブ情報発信のプラットフォーム「ART AND MORE」キュレーター。
__________________________________________________________________________



Writer:Kouta Ishizaki
Editor:Atsushi Shimizu
Photo:Shingo Hayashida
Logo :Yuuki Nishimura(NiHo)



6次元



© ART AND MORE




『レオ・レオーニ 希望の絵本をつくる人』
まるさんかくぞう
『オーレ・エクセル イン モーション』
『ハーブ&ドロシー』
『木のうた』
『きりのなかのサーカス』
『ママのスカート』
『かさ 』
『ブルックリン・ネイバーフッド』
『Casa BRUTUS 2013年 12月号』
『ファンタジア』