名店手帖 vol.05 「空想製本屋」

名店。人気の店、有名な店、行列が出来る店、そして歴史のある店。
名店の形はさまざまです。

この「名店手帖」ではそんな名店も、それとは違った形の名店も、
今後名店になりそうな予感のする魅力的な名店(未来の名店)もたくさんご紹介していきます。



一冊を通して、人と本が出会う場



今回ご紹介する名店は手作業で本を仕立てる製本屋。
そもそも「製本屋」とは?名前も気になる「空想製本屋」をご紹介します。


空想製本屋


一軒家の玄関に小さな看板。
「空想製本屋 Bookbinding Workshop」とチョークで書かれ、羽ばたいているような本のイラストがなんとも可愛らしく見えます。
ここは空想製本屋として活動する本間あずささん(29)の自宅兼アトリエ。


空想製本屋
アトリエには製本に使う道具、什器、様々な紙などが整頓され並んでいる。



勤めていた編集の会社を辞め、空想製本屋を屋号に、手製本を仕事とする「製本家」として独立したのはおよそ3年前の2010年。

編集の仕事をするずっと以前の大学生時代から製本活動をしていた本間さん。
いろいろとお話を伺いました。



手製本を通じて本の在り方を探る



「学生時代に手製本を始めたときから仕事にするのを目的に活動をしてきました。手製本と出会ったきかっけは大学生時代に出会った栃折久美子(とちおりくみこ)さんのエッセイを読んで。栃折さんの本を読んで手製本の魅力に夢中になったのですが、“仕事”としてやっていきたいと意識したのは、手製本を通じての本の在り方に興味を持ったからです。昔のヨーロッパで仮綴じ、未綴じという手法があって、この時点では本は完成していない未製本の状態なのですが、この未製本の状態で販売を行い、ここから読者が製本屋に頼んで気に入った好みの装丁に仕立てるという文化というかシステムがあり、そのシステムが素晴らしいと思い、日本でも手製本を“仕事”にしていきたいと思いました。書き手でなく、読者、読み手側に本の形づくりが委ねられる、読み手の方も本が本になっていく過程に関わることが出来る、その手助けが出来る仕事は魅力的だと感じました。日本には仮綴じ、未綴じという本は全然ないし、本を仕立てるという文化はなかなかないので大変ではありますが、それでも仕事にしたいと思いました。」


空想製本屋
アトリエの本棚には本、書物、印刷などの関連本が並んでいる。


空想製本屋
本間さんが今まで製本した本の一部。どれも一冊一冊手作業でつくられた本たち。



「仮綴じ、未綴じの本を仕立てる、という仕事を日本に根付く形でやっていきたいと思い『本のお仕立て直し』という仕事を始めました。お客様が大事にしている本を一度お預かりして、解体し、お客様からその本に対する思い入れを伺って、本の素材を選び、デザインをし、一人の為の一冊の本を制作する。その工程を『本のお仕立て直し』と呼んでいて、それが私なりの日本に根付いた形の製本家としての仕事の一つです。」

本を仕立てる。

たしかに魅力的な仕事ではあるけれど、日本にはあまりない文化かもしれません。

「本のお仕立て直し」は本間さんなりに考えた『製本家』としての本間さんの活動であり、仕事。
一人の為に一冊の本を。



一冊の本の物語と記録のプロジェクト



「本のお仕立て直しの依頼を受けて製本した本たちは、お客様にお渡ししてしまうので、ここにはないのですが、本のお仕立て直しをした記録として、その本についての思い入れなどをこれに手書きで書いてもらっています。」


空想製本屋
蛇腹の豆本たちに手書きで書かれた、「本のお仕立て直し」を依頼した方たちの様々な思い。



「これらは実際仕立てた本と同じ素材を使って制作されています。仕立て直しをした記録、記念としてお客様に一冊、私に一冊。」

一冊一冊が手作業で、それらはすべて依頼者の元へ旅立っていきます。

仕立て直しをしていて、その本が好きになり、自分の好きな一冊となることも多いという。


「仕立て直しは仕事なのですが、ただ仕事としてというだけでなく、仕立て直しを通して改めてお客様と本が出会う場になれば良いなと思っています。なので、仕事でももちろんあるのですが、一種のプロジェクトという感覚もありますね。一人と一冊の記録を集める、そんなプロジェクトです。」


その本に関しての物語、エピソードを依頼者であるお客様から聞いて、新しい姿に生まれ変わる本。

プロジェクトにも近い感覚というのは本間さんと実際話しているとすごくわかることで、本を製本していく過程にかなり重点を置いているのが『本のお仕立て直し』。

その過程にある物語を具体的に形にしていくお仕立て直しは、人と本の関係、在り方を改めて考えさせられるものになっています。



「手製本でできること」から広がる空想製本屋の仕事


一人の為の特別な一冊を仕立てる「本のお仕立て直し」。

もちろん、空想製本屋の仕事はそれだけではありません。



「これは本のお仕立て直しとはまた違ったもので、『旅の本』と呼んでいるものです。旅先で集めてきたパンフレットや町の地図をそのまま取っておくのではなく、自分で編集して一冊の本にするというワークショップでの企画です。」


空想製本屋
手作業で綴じられた「旅の本」。


空想製本屋
この3冊は6月に行った展示の為に制作したもの。国立の古道具屋さんから譲り受けたパンフレットや地図は50年以上前のものということ。



「こういったワークショップの他にもアトリエで行っている製本教室もあります。ワークショップでは比較的簡単な製本を教えることが多いですね。ですが、ただ製本方法を教えるのではなく、テーマを設けて、内容から考えて形にする、というワークショップをしています。」



空想製本屋
飛びだす絵本がテーマのワークショップで制作した一冊。


空想製本屋
こちらは俳句の zine を作る『hi→(ハイ)』と共催したワークショップでつくった俳句帖。春の植物園での吟行後、自分で詠んだ句と気に入った句を選び、その場の空気を閉じ込めた世界に一冊だけの手製本。



「他にも、小部数の本をオーダーメイドで制作する仕事をしています。結婚式や家族のアルバム、作品集など、手で一冊一冊作るからできることを大切に制作をしています。」

制作する際に用いる製本様式は、日本独特の和綴じなどを使うこともありますが、ほとんどはヨーロッパの手法ということ。

本間さんは2011年6月より、半年間スイス・アスコナの製本学校へ通っていました。

「より自分の仕事を明確にするため、多くのことを学びたいと思ってスイスへ製本を学び直しにいきました。スイスで経験し学んだことは現在の製本家としての仕事に多く生かされています。」



つなぐ、そして、受け継がれていく



本のお仕立て直し、小部数のオーダーメイド製本、様々なワークショップ、製本教室、スイスでの製本修業…、本間さんの「製本家」としての仕事や活動を少しずつ知ることが出来ました。最後に、改めて空想製本屋という屋号名について聞いてみました。


「空想製本屋という名前の由来は学生時代、最初に展示したときに付けた名前です。最初は本のお仕立て直しの活動から始めたので、一人の人が大事にしてきた一冊と、持ち主の関係性や思いなどを、様々に空想しながら新しい本の形をつくる、という意味を込めました。本と人をつなぐ、ただ単に手を動かして本を作るのではなく、手製本とはイメージを形にするということです。」

空想とイメージ。何もないところから本間さんの仕事は始まります。

本も紙ももちろん存在するのですが、形があってもそこにあるのは空想なのです。


「オーダーで一冊一冊注文を受けて、形がないところからイメージを形にしていく作業なので、大変ですね。でもやりがいがすごくあるし、楽しいです。個人的に、本も家具のようなものになってほしいと思っています。何度も手入れをして、代々受け継がれていく、という。書店に並んでいる本もおもしろいし好きなのですが、そういった本とは違う本の在り方、手製本だから出来る人と人をつなげるというところに仕事の魅力を感じています。本がうまれる前の現場が、色んな人が関われる、もっと開かれた場所になればいいなと思っています。」



空想製本屋



「身体感覚として、ページをめくるという感覚が段々忘れられてしまっていくような気がします。日常的に触れられて、本と人の身体のつながりを感じていられる、そんな本を意識してこれからも製本していければと思います。」


人と本をつなぐ、そして受け継がれていく。

今後の夢として、「街に開かれた製本屋」をつくりたいと言っていた本間さん。

そのお店はその街に住む様々な人が壊れた本を持ち寄ったり、本を作りたい時に気軽に相談に訪れたりできる場所。

そして本がうまれる前の現場に関わることができる場所。

ひとりといっさつ。

本間さんの仕事から、本の在り方、新しい可能性を見つけることが出来ました。

本とは何か、空想を大きく羽ばたかせた、その先にあるのは空想製本屋なのかもしれません。



空想製本屋


空想製本屋



「空想製本屋」
・空想製本屋アトリエ
東京都武蔵野市境南町(最寄り駅:JR中央線武蔵境駅)
アトリエ訪問は予約制とさせていただいております。
手製本のご注文、ご相談などで訪問をご希望の方は、メールにてご連絡ください。
折り返し、住所詳細をご連絡いたします。
info[at]honno-aida.com
http://honno-aida.com/




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Profile

石崎孝多 / Kouta Ishizaki
1983年生まれ。フリーペーパー専門店「Only Free Paper」元代表。
Amazonにない本を紹介するnomazonを始め、「五感書店」「朝まで本屋さん!」など本の企画、
その他、執筆、選書、店舗のディレクションなどを行っている。
クリエイティブ情報発信のプラットフォーム「ART AND MORE」キュレーター。
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Writer:Kouta Ishizaki
Editor:Atsushi Shimizu
Photo:Yuuki Nishimura
Logo:Yuuki Nishimura(NiHo)



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