名店手帖 vol.04 「少女まんが館」

名店。人気の店、有名な店、行列が出来る店、そして歴史がある店。
名店の形はさまざまです。

この「名店手帖」ではそんな名店も、それとは違った形の名店も、
今後名店になりそうな予感のする魅力的な名店もたくさんご紹介していきます。



今回ご紹介する名店は15年以上歴史がある名店。
しかし「売る」ということよりも「利用してもらう」という形の名店です。



そこはおとぎ話しに出てくるお菓子の家のような、現実の世界



都心から電車で1時間半ほど、気分はもう小旅行のような気分で、ワクワクした気持ちで目的の場所を目指す。
東京とは思えないほど、のどかな場所に辿り着く。


何かでその場所を知り、ずっと行ってみたいと思っていた場所。
そこは『少女まんが館』。通称『女ま館』。
日本で唯一の少女まんが専門の図書館です。


少女まんが館
山に囲まれた住宅地の中に現れる「少女まんが館開館中」の看板。ワクワクが高まります。


少女まんが館


水色の板張りの一軒家。この建物が『少女まんが館』です。

建物が醸し出す不思議な雰囲気からは、まるで童話に出てくるお菓子の家のような佇まいも感じられます。

「この建物が出来たのは2009年。以前は隣の日の出町に少女まんが館はあったのですが、ここに移転してきました。」

そう話すのは館主の中野純さん。

入館料はなし。誰もが自由に利用出来る少女まんが専門の図書館です。

館内は文字通り少女まんががズラリと並びます。


少女まんが館


少女まんが館


少女まんが館


少女まんが館


少女まんが館
二階に続く階段も少女まんがを収める本棚に。年代は幅広く、60〜90年代の様々な少女まんがが並ぶ。



少女まんがを失わないために



以前から知っていたとはいえ、実際訪れるとやはり不思議な場所です。

なぜこのような図書館を作ろうと思ったのでしょうか。この図書館が出来るまでの経緯をお聞きしました。

「少女まんが館が出来たのは1997年です。今ではあまり考えられませんが、当時少女まんがの価値があまりに低かった。読み終わった少女まんがは、どこも買い取りや引き取りなんてことはしてくれなくて、処分する以外方法はありませんでした。その状況が少女まんが好きの私たちは耐えられなかった。少しずつでも少女まんがを残していきたい。そうして、『あらゆる少女まんがを保存するために』私たちは少女まんが館を作りました。私たちの目的は『少女まんがの永久保存』です。」

この少女まんが館を運営する館主の中野純さん、大井夏代さんご夫妻はそう話します。


少女まんが館
元々少女まんがが好きだったという、館主の大井夏代さん(51)と中野純さん(52)。


永久保存はもちろん、少女まんがに囲まれた、少女まんがだけの空間を作りたい、そんな純粋な思いもこの少女まんが館には込められています。

「現在約5万冊の少女まんががこの図書館に収められています。でも始まったときは500冊からスタートしました。我々自身と一緒に始めようと集まった仲間10人ぐらいが少女まんがを持ち寄り、隣の日の出町の借家に本を集めました。1997年3月のことです。そこからすぐ取材が入り、少女まんが館のことはすぐ広まり、全国からどんどん本が集まってきましたね。」


少女まんが館


少女まんが館
天井まで届く高い本棚にびっしり並ぶ少女まんが。大島弓子、池田理代子、大和和紀などはもちろん、雑誌『りぼん』『マーガレット』『花とゆめ』『プリンセス』などの少女まんが雑誌もアーカイブされている。


「内輪でほそぼそと始めたつもりが、本当にあっという間に広がりました。少女まんが館を始めて半年でHPを開設したのですが、その当時はインターネットもあまり普及してなくて、でも広がりが早かったです。」

とても早い広がりを見せた少女まんが館。寄贈のお願いを告知すると、全国からの寄贈も相次ぎます。

「当時のわたしたちの少女まんがへの危機感はとても高かったです。この少女まんが館は『あらゆる少女まんがを保存する』のが目的であって、そこに『セレクトして収集する』という感覚はほとんどありません。文字通り『あらゆる少女まんがを保存する』のです。ですので、寄贈をたくさん頂けるのは嬉しいことです。名作だけでなく、駄作中の駄作も大切にしたい。名作も駄作も、同じ少女まんがですからね。少女まんが「すべて」のおもしろさを失いたくなかったのです。今は増えてきましたが、漫画図書館なんて当時は早稲田の現代マンガ図書館くらいしかなかった。今、漫画図書館が増えてきているのは嬉しいですが、「少女まんが専門」はここだけです。」

貴重な少女まんがも数多く寄贈され、現在寄贈に関しては発行された年代によっては制限を設けています。



本だけでなく、空間と世界を



現在、純粋な少女まんがは少ないとも中野さんは話します。

「2000年代に入って、少女まんがは本当に終わったと感じています。僕らは2000年代以降の少女まんがは「少女まんが」という感覚はあまりなく、「ガールズコミック」と呼んでいます。もう「少女」は絶滅してみんな「ガール」になった。同人とかBLとかもちょっと違ってて「少女まんが」が好きで、「少女まんが」を大切にしたいと思っています。」

僕はそこまで少女まんがに詳しいわけではないのですが、たしかにその感覚はわかります。少女まんがの世界は華やかで、女の子の憧れで、独特の世界。

この少女まんが館は少女まんが本を集めるだけでなく、少女まんがの世界を空間に作るというコンセプトもあります。


少女まんが館


少女まんが館


少女まんが館
空間としての「少女まんが」。大量の雑誌付録なども保管されており、スタンスとしては博物館に近い、とも。


5万冊も蔵書があると、どの作品が良いのか逆に難しくなってしまいます。

この膨大な蔵書の中から特に好きな三冊を中野さん、大井さんに選んで頂きました。


少女まんが館
左から『ダリアの帯』大島弓子、『花伝ツァ』木原敏江、『ポーの一族』萩尾望都


「中でも『ポーの一族』はとても好きな作品です。吸血鬼のストーリーで少女まんがの域を超えた傑作です。ぜひ一人でも多くの方に読んでほしいです。ダリアの帯を始めとする大島弓子作品はどれも素晴らしいです。ここには選ばなかったですが『ベルサイユのばら』ももちろん素晴らしい作品で、歴史少女まんがというジャンルを切り拓いた名作です。」

好きな三冊だけでなく、最も古い一冊と幻の一冊もそれぞれ選んで頂きました。

最も古い一冊は、少女まんがではなく、少女雑誌。


少女まんが館


明治35年に発行された少女雑誌『少女界』。中流以上の裕福な家庭の少女だけが読んでいたのでは、と中野さんと大井さんは話します。

こういった少女雑誌の挿絵が徐々に姿を変え、後の少女まんがの原型となります。


少女まんが館
エッセイや物語で構成される少女界。少女まんがの始まりはここから。


幻の一冊は『ベルサイユのばら』の池田理代子の貸本デビュー作『由紀夫くん』。

少女まんが館
貸本で、今はなかなか見ることが出来ない貴重な一冊。


これらの『少女界』や『由紀夫くん』のような貴重な本もすべて閲覧可能となっています。

貴重な本も多いのですが、少女まんがすべてを集めるのはかなり難しいということです。

そもそも『少女まんが』というジャンルで区切るのが難しいということ。

「少女まんが家でも少年誌や青年誌に作品を連載している作家さんもいますし、80年代、90年代と時代が進むにつれ、少女まんがの拡散・細分化が起こってきます。拡散・細分化された少女まんがを「どこまでが少女まんがか?」ということで分けていくと、それは本当に大変な作業です。たとえば主婦向けのまんがは少女まんがに含めるのかとか。現在寄贈を年代で制限しているのは、その点も含んでいます。本当はすべてしっかり管理したいのですが、なかなか大変で…」

たしかにあまりにも広い少女まんがの世界をすべて、というのは時間も労力も必要な、とても大変なこと。

しかしその大変なことを中野さん、大井さんは15年以上変わらず、現在もずっと続けているのです。



まんがを読む姿勢



「少女まんが館の第一の目的はあくまで少女まんがの永久保存で、公開することを主目的にして集めたわけではありません。なので、1997年に少女まんが館が始まり、一般公開をしたのは2002年8月からです。集まったものを私物として抱え込んでいては意味がないので、広く共有していくために一般公開しています。公開にあたって重要なのが、まんがを読むときの姿勢です。まんがは寝転がって読むのが一番良いと思っています。だから2階の読書スペースは、床に寝転がって読めるようになっています。」

たしかに寝転がってまんがを読むのは本当に幸せな時間です。


少女まんが館
二階にあるちゃぶ台とレトロなデザインの座布団。ここでは少女まんが好きが集まる、井戸端会議のような「小さな茶話会」も不定期開催される。

少女まんが館
窓際の机もまんがを読むのに心地よい、リラックス出来る特等席。もちろん寝転がっても良い。


「日の出町に少女まんが館があったときも床は畳やカーペットで、寝転がって読めるようにしていました。全国各地からはるばる来てくれた方も、近所の小さな子どもも、みんな寝転がって少女まんがを読める。まんがを読む環境はとても大切です。」

山に囲まれたのどかな環境でこの空間、お客さんは後ろ髪を引かれる思いで帰ることも多いとか。ずっと居たいという気持ち、すごくわかります。



少女まんが大事典



中野さん、大井さんに少女まんがについてのお話をすると本当に話がとまりません。

お二人とも本当に、心から少女まんがが好きなのです。



少女まんがの永久保存を目的に作られた『少女まんが館』

そこは本当に少女まんがに溢れた別世界でした。

永久保存とは別に『少女まんが大事典』を作る目的もあったという中野さん。

テーマに合わせてセレクトされた大事典なら作るかもしれないけど、インターネットの普及により、今は情報が充実しているのでわざわざ大事典を作る必要はない、ということを仰っていました。しかし、お二人の作る大事典、見てみたい気もします。

それはきっと中野さん、大井さんにしか作れない大事典。

他の人が作る大事典との大きな違いはお二人の少女まんがに対する思いです。

今後大事典が完成する、完成しないの話ではなく、

もしかしたらすでに、その一冊は少女まんが館の本棚のどこかにあるかもしれません。

それはまぎれもなく少女まんがで、

少女まんがの歴史に残る、少女まんがを語る上で外す事が出来ない貴重な一冊になると思います。

少女まんが館がある限り、少女まんがの世界はこれからもずっと失われることはないでしょう。




「少女まんが館」
〒190-0155
東京都あきる野市網代155ー5
http://www.nerimadors.or.jp/~jomakan/
※本の貸し出しは行っておりません。館内での閲覧のみです。
一般開館日は4月~10月の毎土曜日、午後1時~午後6時です。
11月~翌3月までは冬期休館となります。
少女まんが図書館を始めたい人の支援も行っています。
少女まんが館は、中野純+大井夏代(さるすべり)による個人運営です。
電話:042-519-9155(さるすべり)



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Profile

石崎孝多 / Kouta Ishizaki
1983年生まれ。フリーペーパー専門店「Only Free Paper」元代表。
Amazonにない本を紹介するnomazonを始め、「五感書店」「朝まで本屋さん!」など本の企画、
その他、執筆、選書、店舗のディレクションなどを行っている。
クリエイティブ情報発信のプラットフォーム「ART AND MORE」キュレーター。
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Writer:Kouta Ishizaki
Editor:Atsushi Shimizu
Photo:Shingo Hayashida
Logo:Yuuki Nishimura(NiHo)



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